cjc | 12月号-4
 
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22年度調査研究紹介

モータ、二次電池等に関するレアメタルの3Rの推進に関する調査(競輪補助事業)

 レアメタルは、産業機械分野において製品の小型化・高性能化や省エネルギーの諸点で日本の国際競争力の維持・発展に欠かせない重要な資源です。しかし、その産出が特定の国に偏在しているために戦略的な対応が求められる資源であり、我が国の資源戦略上、重要な課題となっています。

 このような状況をふまえ、今後普及の顕著な拡大が予想される次世代自動車に使用される希土類磁石モータやリチウムイオン二次電池に使用されるレアメタルリサイクルについて調査しました。

1. 希土類磁石のリサイクル技術

 磁石メーカーの工程内不良品や加工屑、磁石製品となったものの市場からの回収磁石等が磁石廃棄物としてリサイクルされることになりますが、これらはその性状に応じて、①原料再生 ②合金再生 ③磁石再生という形で再生利用されます。

 希土類磁石の製造工程では、切削や破損等のため全体の20~30%がスクラップになりますが、これらスクラップのうち約70%が研磨屑であり、残りのほとんどが不良品や端材です。製造工程における磁石の工程内品については、各メーカー内で再利用( ほぼ100%)されています。また製造工程で発生する加工屑についても、現在自社内もしくは外部委託により既にリサイクル(95%以上)されています。

 現行の粉末屑のリサイクルでは、塩酸、硫酸などの酸溶解後液に酸素を吹き込むことで選択的に鉄成分を水酸化物や酸化物として沈殿させ、酸使用量及び酸成分を含む廃棄物の低減を図っています。

 ネオジム、ジスプロシウム等は溶媒抽出法を利用して分離精製し、更にシュウ酸、炭酸ナトリウム、フッ酸、フッ化アンモニウム等を添加して、沈殿物として分離し、最終的には溶融塩電解により金属状とする方式が採用されています。

 希土類磁石のリサイクル技術は、「資源セキュリティ」という視点からも重要な戦略技術として位置づけられます。希土類磁石市場の中心となっているネオジム・鉄・ホウ素系磁石を性能と品質および資源の面で有効に活用し、世界市場の中で応用製品の価格競争力をいかに確保するかが、我が国の課題であり、ネオジム・鉄・ホウ素系磁石のリサイクルを適切に推し進めることが重要となっています。

2. リチウムイオン電池のリサイクル技術

 リチウムイオン二次電池は近い将来電気自動車などに活用されることが期待されていますが、電気自動車用リチウムイオン二次電池の正極材には、コバルトだけではなく、ニッケルおよびマンガンがリチウム酸塩の形で添加された複合正極材が注目されています。複合正極材の場合には、含有する複数のレアメタルの回収が既存のコバルト系小型電池のリサイクルプロセスでは処理できないため、新たなリサイクルプロセスの開発が必要となっています。

 リチウムイオン二次電池からコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどのレアメタルを回収するプロセスは各種提案されていますが、商業規模で一貫して操業を実施している企業は現時点でありません。

(1) UMICORE社のリサイクルプロセス

 リチウムイオン二次電池からニッケル、コバルトを実証化プラント規模で回収している世界で唯一の企業として欧州のUMICORE社が挙げられますが、マンガン、リチウムを大規模に回収している企業はまだありません。

 UMICORE 社のリサイクルプロセスの概要を図1に示します。廃電池をプラズマ炉で溶解し、リチウム、マンガンなどの成分はスラグに移行させ、コバルトなどの有価金属をメタルに濃縮します。メタルはアトマイズして金属粉にした後、酸で浸出し、湿式精製工程でレアメタルを化学薬品などに回収しています。本プロセスで回収可能な金属はニッケルおよびコバルトで、マンガンは現時点では回収されていません。また、リチウムはプラズマ炉で溶融するとスラグに移行するため、本プロセスでは回収できません。

図1 UMICORE社のリサイクルプロセス

図1 UMICORE社のリサイクルプロセス

(2) TOXCO社のリサイクルプロセス

 今後、多量に発生する廃リチウムイオン電池に含まれるリチウム量は莫大であり、貴重な資源であります。そのためリチウムのリサイクルには、世界各地の大学や研究所でそのプロセス開発が進められていますが、これまで実操業プラントの稼動の報告はありませんでした。

 最近、カナダのTOXCO社が廃リチウムイオン電池などから炭酸リチウムを回収するプラントを建設し、小規模な操業を開始しています。本プロセスは、冷凍破砕、サブマージドシュレッダーなどの特殊な破砕プロセスを採用していることから、コストの面では課題が残りますが、破砕技術面では非常に興味深いものです。

 今後需要の増加が見込まれる複合正極材のリチウムイオン二次電池の場合には、リチウム以外に多くのレアメタル成分を含有しています。これらの金属価格は炭酸リチウムよりも高価なことから、リチウム以外のレアメタルの効率的な製品化が商業化上の課題でありますが、炭酸リチウム価格の上昇時には有効なリサイクルプロセスの一つになるものと思われます。

(3) JX日鉱日石金属グループのリサイクルプロセス

 JX日鉱日石金属グループが開発中のプロセスは1970年代に同グループの日鉱ニッケルコバルト製錬株式会社が実施していたニッケルとコバルトの製錬プロセスを応用したものです。該実証化プラントの処理能力は廃正極材50t/月に相当します。実証化プラントのプロセスを図2に示します。廃電池は既存の小型電池のリサイクルと同様に、先ず焼却により機能破壊を実施し、破砕、分別工程を経て、正極材を含む粉状物を回収します。粉状の廃正極材は正極材と負極材の混合物で、破砕時に粉状となったアルミニウム箔、銅箔、樹脂膜および筐体が混入しています。この廃正極材を原料としてレアメタルを回収します。

 廃正極材中にアルミニウムが混入していると、酸による浸出時に高粘度の溶液となることから、先ず廃正極材をアルカリ溶液で浸出し、アルミニウムのみを溶解して、ろ過・分離します。そのろ過ケーキを硫酸で浸出して、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウムおよび銅を浸出します。この時、負極材のカーボン、樹脂は浸出されないことから、ろ過することにより分離します。ろ過後液にはレアメタルと銅が含まれていることから、先ず銅イオンを硫化物としてろ過分離した後、溶液のpH を調整して溶媒抽出することにより、マンガン、コバルト、ニッケルの順に抽出し、それぞれ単独のイオンのみの酸溶液とします。リチウムは溶媒抽出後の酸溶液中に残留しますので、ソーダ灰を添加することにより、炭酸リチウムとして析出させて、分離回収します。溶媒抽出されたマンガン溶液、コバルト溶液およびニッケル溶液はそれぞれ浄液工程で不純物成分を分離、精製した後、電解採取によってレアメタル金属を回収します。

 電解採取時には一定濃度の溶液に調整する必要があることから、マンガンおよびニッケルの場合にはリチウムの場合と同様にソーダ灰により炭酸化物を生成させ、電解液に溶解することにより濃度を調整します。コバルトの場合は高濃度の抽出液が得られることから、希釈することにより濃度を調整し、電解液としています。

 本プロセスは小規模のテストプラントによる連続操作運転により、マンガン、コバルト、ニッケルおよびリチウムを抽出分離、精製できることを確認しており、今後商業規模の連続試験によってプロセスの経済性を見極め、レアメタルを効率的に回収する上での操業上の技術課題を究明し、事業化に向けた技術確立を図っていく計画です。

図2 リチウムイオン二次電池のリサイクルプロセス

図2 リチウムイオン二次電池のリサイクルプロセス

3. 長期的なレアメタルリサイクル推進のあり方

 レアメタルのリサイクルでは価格が変動し経済性が失われれば、リサイクルが頓挫する可能性があります。リサイクルシステムを作っても経済的につぶされてしまうことになります。逆に、資源価格の高騰や資源量の逼迫は、リサイクルの動きを加速することになります。経済的な変動に加え、今後資源的、政治的な要因も加わってきます。

 このため、レアメタル利用産業界では自主的に資源確保の対策が必要となります。

 対策例としては、代替材料の開発、使用量の削減、鉱山の開発、備蓄、リサイクルなどが挙げられます。

 一方、民間企業でカバーしきれない場合、あるいは、単独業界だけでは成果の出る対策が困難な場合には、政策による政府の役割が重要となります。昨年の尖閣諸島問題は、民間だけでは対策に限界がある一例であり、政府による何らかの対策が効果的です。

 実際に、経済産業省で設備導入、鉱山開発、技術開発に大規模な補助金を打ち出すなどの対策を行っており、一定の効果が期待されています。

 リサイクルの技術開発についても補助金を打ち出していますが、仕組みとして、より効果の高い方法も今後検討していくものと期待されます。

(1) 資源回収率を上げるための施策

 潜在的に資源が存在しても、回収されなければ意味がありません。レアメタル(希土類磁石)を回収するには政策として、補助金をつけて買い取る、ガイドラインで誘導する、回収を義務づける、などがあり、回収した希土類磁石を素材メーカーが買い取りやすくする仕組みや補助金誘導が効果的と思われます。

(2) リサイクル原料の備蓄のための施策

 使用済みレアメタルの多くは、技術的・経済的制約から回収されずに廃棄処分されています。今後、技術開発が進めばこれらのレアメタルを回収できる可能性がありますので、将来のレアメタル原料として備蓄することも一案です。回収した希土類磁石を政府が買い取り、備蓄・管理費用の一部を補助する等の施策検討も有効と思われます。

(3) 技術開発

 リサイクル原料から低コストで特定のレアメタルを効率良く回収する技術開発が必要です。

(4) 回収システムが整備されていない使用済製品からのレアメタル回収

 多くの分野で広く使用されているので、一律の回収は困難です。回収した磁石を政府または金属素材会社が買い取れるように補助金を出すなど、回収する企業のインセンティブが必要です。

 その場合のポイントは、持続可能な旋策であることです。補助金は永遠に出すべきものではなく、期間や額などは、その補助金が呼び水となり素材産業、製品産業、ユーザー、政府にとって満足できるように制度設計することが求められます。

(5) 今後は資源や社会システムとしてのリサイクルが必要になる

 近年、欧米では一部企業がリチウムイオン電池の回収事業を行っており、また日本でもJX日鉱日石金属グループや三井金属鉱業株式会社が使用済みリチウムイオン電池からのリチウムやコバルト、ニッケル、マンガンの回収を事業化する動きがあります。

 現状では、いずれも鉱石からの製錬がコスト的に有利ですが、鉱石の枯渇、廃棄物の増大、資源消費の増大を考えたとき、リサイクルは避けて通れない問題であり、リサイクルを資源ソースとして活用していくことを、上記事業化の動きとともに広げていくことが求められています。

 今回の調査報告は、現状を知る上で有効な内容となっており、また、今後の回収・リサイクルをどのようにしたら良いかについての指針を示しているものとなっています。

 今後求められるリサイクル事業の本格化をいかに進めていくかという検討が、次の段階として求められています。



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