cjc | 3月号-5
 
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22年度調査研究紹介

「使用済製品からの希土類磁石の分離・回収技術(脱磁技術)に関する調査研究」(財団法人機械システム振興協会委託事業、競輪補助事業)

 本調査研究は、レアアースリサイクルに関するものです。最も強力な永久磁石であるネオジム磁石を、製品から取り出しリサイクルすることは容易ではなく、そのための脱磁技術に焦点をあてて調査研究を行いました。

 ネオジム磁石には、ネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)といったレアアースが使用され、省エネ家電や次世代自動車(ハイブリッド自動車、電気自動車)の高性能モーターに大量使用が見込まれ、早急なリサイクルシステムの確立が期待されています。脱磁(消磁)技術は、磁石のキュリー点(ネオジム磁石は310℃)まで温度を上げる熱脱磁方法と、着磁と逆の減衰磁場をかけ常温で脱磁する方法(以下「常温脱磁」という。)の2種類があります。熱脱磁はすでに一部で使用されていますが、作業の安全性や省エネルギーの観点で課題もあります。ここでは新たな脱磁技術として常温脱磁技術について検討しました。

 なお、脱磁試験は、株式会社テルムの協力を得て、実施しました。

1. 常温脱磁試験の対象製品

(1)家電洗濯機DDモーター(図1、図2)

 洗濯機モーターから外したローター(磁気回路品寸法:250φ×30mm、磁石:20kOe×48極)の状態で脱磁試験を実施しました。このローターはFRP製で、磁石単体が48枚円周上に埋め込まれた状態で配置されています。

家電洗濯機DDモーター(図1、図2)

(2)エアコンコンプレッサ(図3、図4、図5)

 エアコンコンプレッサから外した切断品(図4)とローター(磁気回路品寸法:50φ×40mm、磁石:30kOe×4極)(図5)を脱磁試験しました。ローターには磁石単体が正方形状に4枚配置されています。

エアコンコンプレッサ(図3、図4、図5)

2. 脱磁試験

 家電洗濯機DDモーターとエアコンコンプレッサの対象製品に合わせた専用脱磁ヨークを試作して、脱磁試験を行いました。

(1)脱磁用電源

 脱磁用電源最大容量4,500V-4,000μFに高めた電源(図6)を使用しました。

図6 電源容量を高めた脱磁用電源

(2)脱磁試験の方法

①家電洗濯機DDモーター

 脱磁ヨーク(外形寸法 600mm×450mm×250mm, 29kg)(図7)の極数は対象製品に合わせて48極です。サンプルの取り出しはエアによる押上げ方式としました。減磁界印加方法は、洗濯機ローターに脱磁ヨークをすっぽり被せるようにセットした後(図8)、通電して行いました。平行パルス減衰磁界を用い、3,000Vから正逆のパルス(図9)を交互に12回印加しました。印加磁界は、磁石磁化方向に並行です。

家電洗濯機DDモーター(図7、図8、図9)

②エアコンコンプレッサ

 減磁界印加方法は、エアコンローターとコンプレッサ切断品のローター部分のそれぞれを脱磁ヨーク(内径70φの水冷式空心コイル)内に入れて、印加磁界を磁石磁化方向に直角になるよう通電しました(図10、図11)。印加電圧は、1,000Vから徐々に上げ3,200Vまで印加しました。

エアコンコンプレッサ(図10、図11)

3. 脱磁試験結果のまとめ

(1)対象製品:多量入手可能な家電洗濯機DDモーターとエアコンコンプレッサを選択しました。

(2)専用ヨーク:脱磁試験では、家電洗濯機DDモーターとエアコンコンプレッサのローター(磁気回路品)に合わせた専用脱磁ヨークを試作して、脱磁試験を行いました。

(3)試験結果:対象2製品については、磁力は共に40ガウス以下となり、脱磁が確認できました。なお解体・運搬時の作業性と安全性等の確保の観点から、脱磁後の磁石が垂直鉄板に吸着せず自重落下する残留磁化(約100ガウス以下)を目標としました。製品内の磁石の常温脱磁は、磁石単体の場合と比較して、磁石を取り囲む金属が脱磁作用を妨害するため電源の高出力化や冶具構造の最適化が課題となりましたが、専用の冶具(ヨーク)を開発することで可能となりました。

4. 今後の課題及び展開

(1)脱磁技術について

 対象2製品については、脱磁技術の目処がついたといえます。ただメーカーが異なる製品等、機種が変わった場合の脱磁方法として、それぞれの機種に対応する治具を用意するなどの個別対応を必要とするため、高効率化、低コスト化のための汎用方法を可能とする脱磁技術へと展開するのは、今後の課題です。

(2)希土類磁石のリサイクルシステムについて

 希土類磁石のリサイクルシステム構築のためには、経済性に見合ったシステムを構築することが最大の課題であり、また適用技術もその観点で開発される必要があります。現状では、家電リサイクル工程に希土類磁石の取り外し工程を組み込んだ場合、そのコストは経済性が見合わないことが予想されるため、希土類磁石新規脱磁技術を含む希土類取り外しプロセス開発によるリサイクル工程の大幅な簡素化のための検討が必要であると考えられます(例:図12)

図12 家電磁石からのレアメタル回収システム(例)



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